教育コラム 「先生、その教育もう古いです!」
【第41回】 海外生には経験が必要?
そもそも私たちがこの「アクティブラーニング合宿」を開催しようと考えたのは、思考力や表現力、主体性や協働性、そしてIT技術の習得など、「新しい学力」と呼ばれる力を子どもたちが身につけられるようにすることが目的でした。学校でも修学旅行や校外学習等はあるのですが、それとは別に総合的に学習する機会を設けることが今後ますます必要になると感じたからです。
だがそれ以外にも、「海外だから得られる経験をして欲しい」という思いもありました。日本ではできないこともできるはずなのに、多くの生徒たちは目の前の勉強等に追われて、そのようなことに目を向けられていないのが実際のところです。だから入試に向けての面接練習を行うと、定番の質問である「海外での生活を通して得たこと」について話せるネタがないケースも見受けられるのです。海外に住んでいるのにもったいないなーと思ってしまうのです。
しかしそれは子どもたちではなく、大人側の問題です。子どもたちが様々な経験をできるような環境を、本来ならば大人側が工夫をして作り出す必要があるのに怠っていて、その代わりに「勉強しろ」の一言で簡単に片付けているのかもしれません。もちろん机に向かう時間と学習量は必要ですが、それだけでなく人間的な成長が伴うことによって学力は向上するので、そのためにも様々な経験は必要なのです。
このような理想主義的な話をすると、「学習塾は成績を伸ばし志望校合格に向けてたくさん勉強させればいいだろう」という声も聞こえてきそうですが、逆に「学習塾だからこそ分かっていてできることがある」とも思うのです。そのアイデアが具現化されたものが「アクティブラーニング合宿」やNOAHオリジナルの「表現・コミュニケーション講座」であり、それは学習塾の新しい在り方の一つになるかもしれません。塾は学習する場であることに変わりはありませんが、「何をどのように学習するか」は今後急速に変化すると考えています。
以上堅苦しいことを書いてしまいましたが、とにかく私が思うのは、せっかく海外にいるのだから、子どもたちにはいろいろな経験をして、それを今後に役立てて欲しいのです。そのためにも私たちは「アクティブラーニング合宿」のような企画を今後も実践し、より充実した、より楽しい(これが大事!)内容を提供したいと考えています。
【第42回】 予習動画は役に立つ?
さて昨年のオンライン授業をきっかけに、学習空間NOAHでは中学生の数学・英語と小5受験算数で予習動画を作成し、授業で活用しています。オンライン授業を始めた頃は(私たちの経験不足等もあり)なかなか思うようなペースで授業が進まず、それを打開するために導入した面もありました。通信環境に影響されずに学習できるのが、一つ目のメリットでした。ちなみに以前から説明動画はユーチューブに出回っていましたが、私たちの動画はそれを見て終わりになるのではなく、そこで指示された問題を解き、次の授業での説明や演習でより理解度を高めることを目指しました。
しかし導入して1年が経ち、改めて振り返ると、私たちが想定していた以上の効果が見えてきました。まず基本事項を事前に動画で予習するので、授業ではその空いた分の時間で練習問題や応用問題を扱い、解説もできるから、今までならば宿題で出されて分からずに苦労していた問題の理解度が高まりました。またその時間はグループワークでの学習も取り入れ、楽しみながら主体的に学ぶ姿勢も向上しました。
さらに授業だけでなく、自主学習の中で動画を活用する生徒も出てきました。例えば編入試験や数学検定等、各個人の目標に合わせて、授業とは別に必要な単元の動画を視聴して学習しているのです。そのような生徒は単に成績が向上しただけでなく、自立した学習ができるようになり、人間的にも成長したように感じられます。
もちろんすべての生徒に対して効果が出ているわけではありません。動画を見忘れる生徒や、動画をただ流すだけでノートをとらない生徒もいます。またマジメにやっているつもりでも上手くいかないときがあります。そこで改めて学習の進め方を話し、自分でできるようになるまで粘り強く接する必要があります。このような学習システムに慣れるための時間は、生徒によってはそれなりに必要なのかもしれません。
この予習動画は、教室が再開しても引き続き活用しています。改善を加えて、できるだけ多くの生徒がより前向きに学習できるようになるシステムにしたいと考えています。今後VR(ヴァーチャル・リアリティー)技術がどう進歩するかにもよりますが、意外とこの予習動画の学習システムは一般的に定着するのではないかと、勝手に予想(期待?)しています。
【第43回】 オンライン授業のメリットとは?
しかしこの状況に慣れると、オンライン学習の良い点もいろいろ分かってきました。どのようなメリットがあるかを、様々な観点から挙げてみたいと思います。
• 移動がないから、時間を有効に活用でき、また移動に伴う体力の消耗もない。
(特にバンコクの場合、渋滞に巻き込まれずに済むのは大きな利点です。)
• 少し体調に不安があるときでもオンラインで受講できれば、欠席が少なくなるので継続して学習できる。
• (例えば不登校や健康上の問題等で)長期間学校に通えない生徒に、学びの場を提供することができる。
• 今までなら現地に行かないと受講できなかった先生の講義を、世界のどこからでもオンラインで受講することができる。
(先日は内田樹先生のオンライン講義を開催しました。)
• 機材と通信環境さえ整えば、途上国の子どもたちにも質の高い教育内容を提供することができる。
(国によっては教師の質と人数を確保することが難しい場合もあります。)
• PCやタブレット等を使うことが多くなるので、ITを扱う能力が向上する。
• 自分で責任を持って行動しなければいけない部分が増えるので、自立心が養われる。
以上の話を踏まえると、次のような未来像が考えられます。
• オンライン教育のメリットが様々な面で明らかになり、コロナ禍が終息したとしても引き続き活用される。また技術の進歩により、今より質的に改善されたオンラインのサービスが提供され、さらに広い範囲でオンラインが活用される可能性がある。
• 対面での授業でしかできないこともあるので、教室での学習自体は残る。しかしオンラインとの使い分けが進み、学校や塾で学習する内容やアプローチが大きく変わる可能性がある。
• オンラインで学習できる内容と機会が飛躍的に広がったので、モチベーションがある人はいろいろなことを吸収できる。逆に学習意欲がない人は取り残され、今まで以上に個人間の「モチベーション格差」がポイントになる。
特に最後の点について、オンライン学習に対して馴染めない生徒(そしてご家庭)にとって今は非常に学習しづらい状況かと思いますが、これを克服しないと現時点での差が今後大きな差につながる可能性があります。子どもたちが前向きな気持ちで粘り強く取り組めるよう、大人側は励まし、環境を整備することが必要であり、まさに今こそ分岐点となるタイミングかもしれないと感じています。
【第44回】 オンライン学習を上手に活用するコツは?
① 質問したいときどうすればいい?
ZOOMでオンライン授業を受講しているとき、ただ聞くだけではなく発言もしたいけれど、なかなか自分から言い出せないケースがあります。そのような場合、チャット機能や手を挙げるアイコン等を使うといいのですが、まだそのような機能を使っている生徒はそれほど多くないです。
逆に言うと、まだ質問する人が少ないうちに、どんどん質問してくれたらと思います。最初は勇気がいるかもしれませんが、先生にとっても質問はうれしいものなので、心配しなくても大丈夫。1回やってみれば、割とフツーに使えるようになりますよ。
② オンライン授業を楽しむには?
ここで紹介する話は、NOAHで開催したオンラインサロンの中で卒業生が教えてくれたものです。
オンライン授業では、教室で授業を受けるときよりもジェスチャーを大きめにしましょう。例えば先生や他の生徒の発言に大きくうなずいたり、先生のつまらない(?)ギャグに笑ったり、等です。(マイクをオフにして)声を出すのもアリです。自分が動くことで、主体的に参加している意識が高まります。またいろいろな反応が見えた方が、話す側(先生)にとってもプラスになり、場の雰囲気が明るくなります。いろいろな効果が生まれるので、ぜひお試しください。
③ 動画を上手に活用する方法は?
オンラインでの授業だけでなく、ユーチューブにアップされている動画を見て学習することも多くなりました。学習空間NOAHでも、数学・算数や英語で予習動画を取り入れた授業を行っています。しかしまだ動画での予習に慣れていない間は、うまくいかないケースも見られます。
その場合に私が勧めているのは、動画を長い時間まとめて見るのではなく、少しずつ区切りながら見ることです。例題が出たら一時停止して問題を解き、解き終わったら解説を聞き、終わったらまた止めて類題を解き、解き終わったら丸つけをして、直しをしたら次を再生して…、という感じです。
以上挙げた話は、どれもありきたりな話かもしれませんが、意外とできないものです。私たちも生徒たちに声をかけ、励ましながら、より楽しく効果的なオンライン授業を共に作っていきたいと思います。
【第45回】 帰国生大学入試では何が問われるの?
同じ帰国生入試でも、中学入試・高校入試は一般入試に近い形式で、同じような問題を解くことが求められるので、多くの場合は一般入試の過去問を用いて受験対策を進めます。ところが大学入試(特に文系)の場合、英語と小論文がメインとなるので、一般入試とは科目が大きく異なります。さらに学校によってはTOEFL・SAT・IB等のスコアが必要とされ、面接や志望理由書等も合否の判断材料となります。
ここまで読んで、「AO入試と似ている?」と思った方もいらっしゃるでしょう。確かに共通する面が多いのですが、「高いレベルの英語力」と「海外生活経験を踏まえた自分の意見」も求められるのが、AO入試とやや異なる点といえます。また大学入試改革の影響で、AOだけでなく一般入試にも英語資格や論述力が求められる方向に進む中、帰国生以外の入試でも(そして大学入学後や社会に出てからも)活用できる機会が広がることも予想されます。
ただし帰国生大学入試は、どの大学・学部でも実施している訳ではありません。途中で日本の高校に編入した場合、受験の可否について年数等の条件が定められています。また理系の場合、多くの場合は日本式の数学・理科への対応が求められるので、一般入試と同じような対策が必要となります。さらに大学入試は秋入学も含め、様々な種類の入試が新設されています。そして大学・学部での学びを知ることは志望理由で必須となり、その点での理解度や熱意が合否につながることもあります。以上のことから、事前の調べは早めに行いましょう。
また英語のスコアや小論文に向けての学習は、一夜漬けで成果が上がるものと正反対にあるので、中長期的な視点で学習を進めることがポイントになります。インター校に通い始めの段階ではそこまでの余裕はないと思いますが、大学入試から逆算してどのタイミングで何をすべきかを知っておくことは非常に重要だとお考え下さい。
以上の大まかな話から、帰国生大学入試の概要が何となくでも伝われば幸いです。私たち大人が経験した入試とは大きく性質が異なるので、分かりづらい点も多々あるかと思いますが、気になることがございましたらまずはご相談ください。とにかく早めの情報収集がカギになります!